驚き!タイに永住「ビザ」はない!

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2020年8月

永住権を取っても何のビザももらえない!

 タイの永住権を取得しても、ビザは、「永住ビザ」どころか、何のビザももらえない。
 タイの永住権で良く誤解される一つが、「ビザ」との混同だ。

タイ永住権は「ビザ」ではない

 タイの永住権を、日本人は「永住ビザ」と呼ぶことが多い。
 タイ語でも日常では一般的に、ウィーサー・ターウォーン(วีซ่าถาวร) とか、ウィーサー・レジデン (Visa Resident) などと、「ビザ」と言い表すことが多い。

 これは行政用語ではなく、あくまで一般的な言い回しだ。

 タイの入管は永住権について、正式には「ビザ」とは言わない。
 入管ウェブサイトでは見出しなどにこそ Resident’s Visa としていることがあるが、正式な本文では、例えば入管ウェブサイトの永住権申請受付のアナウンスでは、「永住権申請」はこう言っている。

 タイ語:カーン・コ―・ミー・ティンティーユー การขอมีถิ่นที่อยู่
 英 語:Application for Residential Permit

 ティンティーユーとは、居所とか住所という意味。カーン・コ―・ミー・ティンティーユー で、居所取得申請という意味だ。
 そしてタイ入管の行政用語では、ミー・ティンティーユー(居所を有する)で、「永住」を意味する。

 タイ外務省領事部の方のビザ一覧を見ても、タイのビザに「永住ビザ」(Immigrant Visa)というのはない。

永住権を受領するとパスポートに何が押される?

 では、永住権を受領すると、何が発給されるのだろうか?

 それまでのノン・イミグラントビザから切り替わって、パスポートに、新たに「永住ビザ」が押印されるのではないのだろうか?

 実は、そうではない。

 パスポートには、何のビザも押印されないのだ。

永住権を証するのは、居住証明書 Certificate of Residence

 永住権を取得してもビザは何も押印されないが、その代わり、冊子形式の「居住証明書」(Certificate of Residence / ใบสำคัญถิ่นที่อยู่ バイサムカン・ティンティーユー)が交付される。

私が貰った居住証明書。この冊子が永住権を証する。

 永住権を証するのは、この冊子だ。
 有効期限は無期限。
 タイ入国者法第48条が有効期限を無期限と定めており、居住証明書21ページ目の注意書きにも「無期限に有効」とはっきり書いてある。
 そのため、ページ余白(タイ出入国スタンプの押印欄)がなくなったり冊子を紛失や汚損して再発行が必要にならない限り、一生涯有効だ。

 なので「永住証明書」と呼びたいところだが、正式名称がタイ語・英語ともそうではないので、このサイトでは正式名称に合わせて「居住証明書」と呼ぶ。

 「居住証明書」の維持には、いくつかの条件がある。
 こちらにまとめた。

 参 照:「タイ永住権の維持」「タイ永住権者が得る3つの冊子とその維持」

パスポートに押印される、居住証明書の受領記録

 この居住証明書を受領すると、パスポートの方には、「○年○日に居住証明書 番号○○○○を受領した」という旨のタイ語のスタンプが押される。

居住証明書(Certificate of Residence) を受領すると
パスポートに押される、受領記録のスタンプ(入国スタンプの下)

 永住権を受領しても、パスポートに押されるスタンプは、これだけだ。
 入管担当者によれば、このスタンプの意味合いは「居住証明書の受領記録」といった程度だそうで、これ自体に何か効力がある訳ではないそうだ。
 ただ、このスタンプから永住者だと分かるので、永住権取得前の最後の入国スタンプや滞在延長スタンプの滞在期限が過ぎていても不法滞在ではないのが一目瞭然、という効果はある。
 なので、言ってみればこれが、パスポートに残る、永住権を取得した「痕跡」である。
 そしてこのスタンプは、新パスポートに切り替わっても、旧パスポートから移す必要もない。
 だから新パスポートになると、この「痕跡」すらなくなる。

永住者はビザ体系の外へ

 このようなことで、「居住証明書」(Certificate of Residence バイサムカン・ティンティーユー)の冊子が、永住権を証している。

 なので「永住証明書」と呼びたいところだが、正式名称がタイ語・英語ともそうではないので、このサイトでは正式名称に合わせて「居住証明書」と呼ぶ。

 そして、タイ永住権を取得すると、ビザは特に何ももらわない。
 これは永住権と並行して、元々のノン・イミグラントビザの効力が生き続けているという意味ではない。
 元のビザは、永住権申請受理日または永住権発給日(永住権審査中にビザの効力を留保した場合)のいずれかに、もう消滅している。
 そう、永住権を得るともやはビザは、なくなるのである。

 きっと、タイの永住権とは制度上、「ビザ体系の外側」にあるということなのだろう。
 なので永住者は、ことタイ滞在に関しては、ビザ体系の外側に出たのである。

ノンクォーター・イミグラントビザに「書き換わる」わけじゃない

 ビザは特に何ももらわないというと、こう言って賛成しない人がいるかも知れない。

 「いや、そんなことはない。永住権を取れば、ビザが、ノンイミグラント・ビザから、ノンクォーター・イミグラントビザ Non-Quota Immigrant Visa に書き換わるじゃないか。」

 この認識は正しくない。

 ノンクォーター・イミグラントビザとは何だろうか?

 実は、永住者には「再入国許可」(リエントリー・パーミット)は発給されない。
 代わって発給されるのが、ノンクォーター・イミグラントビザだ。
 なので同ビザの役割は実質、「永住者用の再入国許可」。

 取得は本人の任意だ。タイを出入国するために必要な人だけが申請して取ればよい。
 当然、永住者でも特に申請していなければ持っていない。
 だから、永住権を取ったからと言って、旧ビザに代わってノンクォーター・イミグラントビザをもらう訳ではないし、旧ビザがこれに「書き換わる」訳でもない。
 
 いろいろ誤解が多いノンクォーター・イミグラントビザについては、こちらで詳しく述べる。

 参 照:ノンクォーター・イミグラントビザは永住ビザじゃない!

発給がなく制度上だけで残っている、「永住ビザ」(Immigrant Visa)

不思議な「永住ビザ」(Immigrant Visa)

 ただそれであっても、「タイのビザ種別のひとつ」に「永住ビザ」(イミグラント・ビザ Immigrant Visa)があるという話は私も、いろいろなところから聞いたり読んだりした。
 しかし、少なくとも私には、「永住ビザ」を実際に持っている永住者に出会ったことがないし、取得したという話も聞かない。「永住ビザ」の実物の画像が、どこかのサイトに上がっているのも全く見たことがない。
 いくら調べても申請方法の委細は分からない。

「永住ビザ」の実態がわかった!

 なんとも不思議だが、タイの「永住ビザ」とは、なんなのだろうか?

 幸い、はっきりさせることができた。

 私は、永住権申請の過程で2018年12月、入管永住権デスクのスタッフに、永住ビザ(イミグラント・ビザ)はどうやったら取れるのか?と、直接尋ねた。

 答えをもらえた。

 なんと、それは・・・

 「イミグラント・ビザは、制度上は残っているが、実際には発給していない」

 とのことだった!

 これを入管が文字で説明しているものも見つかった。
 例えばこの、入管サムットプラカーン支所の Types of Visa のページ(英語。なぜかタイ語はない)で確認することが出来る。

 イミグラント・ビザ に何か制度上の根拠がないかと調べたら、仏歴2545年(2002)に公布のビザに関する内務省令を発見した。もちろんタイ語だ。
 この第8項にこうある。

「イミグラント・ビザは、第61条に従い永住を目的に入国するために発給される。パスポートまたはパスポートに代わるドキュメントをタイ大使館またはタイ総領事館に提出し、ビザの発給を受けなければならない。」

 ここから、イミグラント・ビザ は制度上は確かに存在して、タイ入国前に国外のタイ大使館・総領事館で発給することになっているのが分かる。
 しかし、その実際の運用としては、イミグラント・ビザは現在発給されていないというわけだ。

 タイ外務省領事部のビザ一覧には、永住ビザ(イミグラント・ビザ)がない。
 その理由も、上のような「制度上は残っているものの実際には発給しない」という運用のためだと合点がいった。

永住ビザは制度上残るのみ。申請できず発給もない

 このように、タイの「永住ビザ」(イミグラント・ビザ)は現在、制度上だけで残るのみで、実際には申請はできず発給もない。

 鉄道に例えれば、正式廃線にはなっていないので路線としては確かに存在するが、実際の列車の運行はもうずっとない、というような状況によく似ている。

 自画自賛で恐縮だが、この事実を整理してはっきり指摘したのは、恐らく、このサイトだけではないかと思う。

まとめ

 まとめるとこうなる。

      1. タイ永住権を得ても、「ビザ」は、特に何も発給されない。

      2. 永住権を受領すると入管から発給されるのは、ビザではなく、冊子形式の「居住証明書」( Certificate of Residence / ใบสำคัญถิ่นที่อยู่ バイサムカン・ティンティーユー)だ。
        この冊子が、永住権を証する。

      3. 「永住ビザ」(イミグラント・ビザ)は制度上残っているのみで、実際には発給されていない。

      4. よく「永住ビザ」と誤解されるノンクォーター・イミグラントビザはそうではなく、実態は、永住者用の1年有効のリエントリー・パーミットだ。
        取得は任意で、出国予定があって必要な人が必要な時に取ればよい。
        永住者でも出国予定がない人は、取得する必要はない。
        もちろん、予定はなくても念のために取っておきたいならば、それも任意だ。

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