2021年2月
最終更新2023年2月
目次
タイ永住権の維持
永住権が維持できるかは重要
タイ永住権の維持について触れて置く。
永住権はもらってしまえばそれでもう安泰で、一生涯消滅しないかと言えば、そうではない。
受領した永住権を維持してゆくには条件があり、これを間違えれば失効する。
そのため永住者になったら、せっかく取った永住権を失ってしまうようなことがないように、確実に維持して行かねばならない。
永住権の話になると、大方の人の関心は「どうやったら取れるか」ばかりで、興味が向かう先は、取得の条件や難易度ばかりになりがちだ。
「永住権が取りやすい国〇〇選!」などといったサイトなど、その典型と言える。
その一方、「永住権を取った後の維持」には、目もくれないことが多い。
しかし、現実に永住者として生きて行く上では、もらった永住権の「維持」が、死活的に重要だ。
何年もの年数と労力をかけてようやく取った永住権が、もしも失われてしまおうものなら元も子もないし、維持できない永住権なら、取ったところで無意味だ。
永住権申請を検討し始めた人にとっても、苦労して取る永住権が果たして自分が予定するライフスタイルで維持してゆけるのかどうかは、事前に知っておくべき重要情報だろう。
タイ永住権の維持はたやすい
幸い、タイ永住権は一度もらってしまえば、その維持はたやすい。
タイ永住権そのものには「更新」はなく、誤って失効させるようなことがない限り、無期限に一生涯有効だ。
永住権を失効させずに維持するための要点は、次の通りだ。
◆警察が永住者に発行する「外国人身分証明書」Certificate of Alien を、警察署で5年に1度延長。
◆タイ出国前には、「永住者の再入国許可の役割を果たす二つのスタンプ」(=パスポートの「ノン・クォーター・イミグラントビザ」と居住証明書の「裏書き」)を、入管で必ず事前取得。(1年有効)
・・・取得せずに出国すると、永住権が無効に。
◆タイを出国したら、「永住者の再入国許可の役割を果たす二つのスタンプ」(「ノン・クォーター・イミグラントビザ」と「裏書き」)の有効期限内に帰タイ。
・・・期限内に戻らないと永住権が無効に。
◆年間の「タイ国内最低滞在日数」の規定はない。
・・・「永住者の再入国許可の役割を果たす二つのスタンプ」の有効期限内でタイ出入国を重ねている分には、合計した年間タイ国内滞在日数がどれだけ少なくても、永住権を維持する上で問題ない。
多くの国で永住権は「もらったらおしまい」ではない
永住権の維持がたやすいなど、そんなことは当たり前だと思うかも知れないが、さにあらず。
永住権は多くの国で「もらったらそれでおしまい」ではない。
取得した後にも数年ごとの定期的な資格更新があったり、年間の最低国内滞在日数(=毎年183日[半年]以上は国内に居住しなければならない等)の制限や、国内に生活本拠が維持されているかの確認があったりするらしい。
そういった維持手続きで、またそれなりの費用が発生する国もあるらしい。
例えば、アメリカ永住権は10年毎に更新手続きが必要で、その際に毎回指紋を取られ犯罪歴が調査され、判明すれば更新が出来ないこともあるそうだ。更新のたびに数か月の審査期間があり手数料400ドル以上を支払うという。
カナダ永住権の更新手続きは5年毎だ。更新には過去5年間のうち合計2年(730日)以上カナダ国内に滞在していなければならなず、更新に際して過去の出入国記録の提出が課されるという。
タイ永住権の維持に必須の手続は・・・
うれしいことにタイ永住権は、維持していく上での条件が極めて少ない。
上述の通りタイ永住権そのものには、「更新」の制度はない。
タイを出国せずにタイ国内に居続ける限り、タイ永住権を維持して行くのに必須の手続きと言えば、
「警察署が永住者に発行する『外国人身分証明書』Certificate of Alienを、5年に1度警察署に出向いて延長する」
(手数料800バーツ)
基本、これだけだ。
実際の延長手続きもたやすい。
ほぼ警察署に出頭するだけのいわば「人物の存在確認」と言った程度で、何かを「審査」や「調査」するものではなく、手続きはすぐに終わる。
参 照:外国人身分証明書の延長
出国せずにタイ国内に居続けるならこのように、外国人身分証明書の5年毎の延長さえ行っていればよく、他に永住資格維持のための「定期的な審査や確認」と言ったものはない。
そういう意味で、タイ永住権の維持はかなり「もらったらそれでおしまい」に近い部類と思う。
「投資」で永住権を得た場合だけは毎年入管に通知が必要
なお、タイ永住権を「投資」のカテゴリーで取得した場合だけは、少し違う。
永住権を受領してから向こう3年間は、入管に対して毎年1回9月までに、投資が維持されていることを証する根拠を提出することになっている。
4年目以降の扱いについては、明文化されたものが見当たらないので私には不明だ。
関心の向きはご自身で調べて頂きたい。
タイ出国には事前に許可が必要だが「年間の最低タイ滞在日数」の縛りはない
タイ出国は許可の範囲で1年未満
タイ永住権を維持する上で、永住者がタイ国外に出る際には、注意が必要だ。
永住者のタイ国外への出国には、入管で事前に「永住者の再入国許可の役割を果たす二つのスタンプ」(=パスポートの「ノン・クォーター・イミグラントビザ」+居住証明書の「裏書き」)の取得が必要になる。
そうでないと出国した時点で永住権が失効する。
スタンプの有効期限が取得日から1年なので、この期限内にタイに戻らなかった場合にも永住権が失効する。
このように永住者の出国には、「再入国許可の役割を果たす二つのスタンプ」の事前取得が必要で、実際のタイ出国期間はスタンプの有効期限の範囲内で1年未満という縛りがある。
年間のタイ国内最低滞在日数の縛りはない
出国してもこの期間さえ守ってタイに戻っていれば、永住権維持のための「年間の最低タイ国内滞在日数」と言った規定はない。
そのため、これは入管に確認したことだが、出国をくり返して年間のタイ居住日数が少なくなっても問題ではなく、タイの居住実態が少な過ぎて永住意志なしと見なされ永住権がはく奪されるようなことは、起こらないそうだ。
これが意味するのは、もしもタイ永住権の取得後に実質的な本拠を日本や他国に移して、タイには年に1度、再入国のためのスタンプ再取得だけに戻るような暮らしを続けたとしても、タイ国内に登録上の住所さえ維持されていれば、現状の制度運用が適用されている限りにおいては、タイ永住権を維持する上で何の問題にもならない。
(もちろん将来的に見直される可能性がないとは言えない)
年間の国内最低滞在日数に厳しい国も・・
世界を見渡すと、永住者に年間の最低国内滞在日数の縛りがないのは、決して当たり前ではない。
アメリカ永住権保持者の知人によると、アメリカ永住権の維持はこの辺りが厳しく、半年以上の出国を繰り返すと問題になり居住実態を調べられたり、その結果永住権はく奪に至るケースもあるそうだ。
カナダ永住権の5年毎の延長のためには、5年のうち最低2年(730日)をカナダ国内で過ごしていなければならないそうだ。
台湾の知人によれば、台湾永住権の維持には毎年、少なくとも半年以上の台湾国内滞在が必要だそうだ。
他にも多くの国で、永住者に最低国内滞在日数の制限があるらしい。
私の親族の実例だが、EU圏の某国に若くから移り住んで永住権も取得していた。この国の規定では半年以上国を離れると永住権が失効する。しかし、その後EU域外の人と結婚してそちらに居を移すことになった結果、永住権を失ってしまった。
「永住者」と言うからには、その国にきちんと居住実態があるのは必須と言うことなのだろう。
厳しい国だと長期日本帰国で永住権維持が問題に・・・
そのため、こういう「年間の最低国内滞在日数」の縛りがある国の永住者には、事情で永住先の国を長く離れなくてはならない状況が生じた際に、永住権の維持で問題に直面することになる。
例えば、日本の実家に長期間戻らねばならない事情が生じたり、自分自身が日本で長期療養が必要になったり、自分や配偶者が国外転勤になったと言った場合だ。
こういうことも勘案すると、タイ永住権を維持する上では、永住者のタイ出国は再入国許可の役割を果たすスタンプの有効期限内で1年未満という縛りはあるものの、タイ国内最低滞在日数の縛りがないことは、大きな幸いと言える。
タイ永住権に「毎年の更新」はない
時々ご質問を頂くのだが、「タイ永住権は入管で年に1度更新が必要」だと、なぜか一部で根強く信じられているようだ。
回答を兼ねて明示的に記しておく。それは誤りだ。
タイ永住権自体に更新の制度はない。一生涯無期限に有効だ。
永住権維持のために必要な手続きは、警察が永住者に発行する「外国人身分証明書」Certificate of Alien を、警察署で5年に1度延長するだけだ。
それなのに「タイ永住権は入管で年に1度更新が必要」だと言う人は、「永住者用の再入国許可」の役割を果たす二つのスタンプ、すなわち、1年有効のマルチのノンクォーター・イミグラントビザと、永住権を証する冊子「居住証明書」に押される「裏書き」Endorsementの、毎年の取り直しを指して、それが「永住権の更新」だと誤解している。
この二つのスタンプの役割は、あくまで「永住者用の再入国許可」だ。
永住者がタイを出国する場合にだけ必要になるもので、出国予定がないなら取得は不要だ。
これを入管で毎年再取得している人は、「永住者用の再入国許可」を毎年取り直しているというだけだ。
これは「永住権の更新」では全くない。
「永住者は年に1度入管に出頭が必要」との言説もあるが、これも誤りだ。
永住者に毎年入管に出頭するような義務はない。
特に用がないなら、入管には何年でも行く必要はない。
私も永住権取得後2年以上、入管には行かなかった。
この委細は、こちらにまとめたので参照を。
参 照:ノンクォーター・イミグラントビザは永住ビザじゃない!
タイ永住権は維持が楽で喪失可能性が低い!
ここまで記したことが意味するのは、タイ永住権は維持が楽で、一度取得したなら後に喪失してしまう可能性が低い永住権だということだ。
申請条件は、タイ永住権の維持条件ではない
タイ永住権の維持でたまに妙な誤解があるが、タイ永住権の申請時には各申請カテゴリー別の申請条件を満たす必要があったが、それはあくまで申請のための条件でしかない。
一度タイ永住権を取得してしまえば、後に申請条件を含む自分の状況がどう変化しようと、永住権の維持には何の関係もない。
申請条件は、タイ永住権の維持条件ではないのだ。
なのでタイ永住権を取得した後に、「就労」で申請した人が離職して無職なっても、「タイ人の配偶者」で申請した人が離別しても、収入や預金残高が一時的にゼロになってしまったとしても、永住権は何の問題もなくそのまま維持してゆける。
だから、「就労のカテゴリーで永住権を取得したら、退職すると永住権が失われる」というような言説は、全くの誤りだ。
但し、タイ永住権を「投資」のカテゴリーで取得した場合だけは、少し違う。
永住権を受領してから向こう3年間は、入管に対して毎年1回9月までに、投資が維持されていることを証する根拠を提出しなくてならない。
タイ永住権の維持は国際的に見て緩い方(たぶん)
タイ永住権の維持はこのように、タイを出国するのであれば入管で事前に、「永住者の再入国許可の役割を果たす二つのスタンプ」(1年有効)の取得が必要だ。タイにはスタンプの有効期限内に戻らなければならない。
が、出国せずにずっとタイ国内に居続けるのであれば、永住権の維持で必要なことと言えば5年に1度、警察署で「外国人身分証明書」Certificate of Alienを延長するのみだ。
それ以外には、永住権の維持でしなくてはならないことは、全く何もない。
(但し「投資」で永住権を得た場合のみ当初3年間は、投資が維持されている報告が入管に毎年必要)
タイを出国する場合にも、年間のタイ国内最低滞在日数の縛りもない。
(但し、出入国を繰り返して永住権を証する「居住証明書」Certificate of Residence のページ余白がなくなった場合には、入管で冊子の再発行が必要)
私は他国の永住権事情にはそう詳しくないが、タイ永住権は国際的に見て恐らく、「取得後の維持」という点ではかなり「緩い方」に属すると思われる。
「タイ永住権の利点」を考えるなら「維持」の理解も必要
「タイ永住権の利点」という議論で関心の俎上に上るのは大概、「労働許可証が必要で自由な就労が出来ない」とか「土地所有が出来ない」といった点ばかりになりがちだ。
この議論をする人のほとんどは、「永住権の維持のしやすさ」にまでは関心が至ることがない。
が、「利点」ということをよりきちんと考えるなら、「維持」もしっかり理解しておくべきだろう。
特に、「投資」を除けば、一度永住権を受領してしまえば「資格維持のための審査」は、5年毎の外国人身分証明書の延長以外には何もなく、「年間のタイ最低滞在日数」の縛りもない。
そのため、タイ永住権は維持が楽で、一度得たなら後に喪失してしまう可能性が低い永住権だということは、よく認識されるべきと思う。