2020年11月
目次
外国人身分証明書 Certificate of Alien とは何か?
「外国人身分証明書」(Certificate of Alien / ใบสำคัญประจำตัวคนต่างด้าว)は、タイに住まう外国人でも、永住外国人のみが所持する冊子だ。
永住権を持たない非永住外国人には、申請も取得も出来ない。
新しくタイの永住者となったら、バンコクの入管で永住権を証する「居住証明書」を受領してから7日以内に、居住地を管轄する警察署でこの「外国人身分証明書」の発行申請手続きをし、受領しなくてはならない。

上のような冊子だ。
パスポートより一回り大きい。
タイ語では、正式名では「バイサムカン・プラチャムトゥア・コンターンダーオ」 ใบสำคัญประจำตัวคนต่างด้าว という。
略して、「バイ・ターンダーオ」 ใบต่างด้าว とも言う。
外国人身分証明書の根拠は、古い「1950年外国人登録法」
外国人身分証明書の根拠は、「1950年外国人登録法」という、永住外国人を対象として70年以上前に制定された古い法律だ。
第4条に、次のように定められている。
「タイに居住する満12歳以上の外国人は、身分証明書を保持しなくてはならない。」
「外国人登録法」は「永住外国人を対象にした法律」なので、ここで言う「タイに居住する外国人」とは「永住者」を意味する。
制度上、永住者には「外国人身分証明書」の常時携帯義務があるとされている。(外国人登録法第17条)
永住を証する「居住証明書」と「外国人身分証明書」の関係
永住者に対して入管が発行する「居住証明書」と、警察署が発行するこの「外国人身分証明書」の関係は、なかなか分かりにくい。
簡単に言えば、こういうことだ。
永住者になると、「タイ入国者法」に基づき、入管発行の「居住証明書」の所持が義務付けられる。
さらに、永住者は同時に、永住者を対象とした法律である「タイ外国人登録法」の適用も受ける。
なので永住者は、「入国者法」が定める「居住証明書」と、「外国人登録法」が定めるこの「外国人身分証明書」の双方を、同時に所持することが必要になるわけだ。
永住者に適用される3法規
さらに言えば、永住者は「タイ住民登録法」の適用も受ける。
そのため、「住居登録証」(タビアンバーン)への登録も必要だ。
非永住の外国人に適用される ないし 何か義務が課されているのは、上のうち「タイ入国者法」だけであった。
そのため非永住者であれば「タイ入国者法」に基づき、有効なビザとパスポートを所持していればよかった。
一方、永住者はこれら3法規が適用される。
表にして比較してみよう
非永住者 | |
「タイ入国者法」 | 有効なビザとパスポートを、義務的に保持 |
「タイ外国人登録法」 | 適用なし |
「タイ住民登録法」 | 住居登録証(タビアンバーン)への、登録の義務なし (ノン・イミグラントビザ保持者の登録は可能だが、するかどうかは任意) |
永住者 | |
「タイ入国者法」 | 居住証明書(Certificate of Residence)を、義務的に保持 |
「タイ外国人登録法」 | 外国人身分証明書(Certificate of Alien)を、義務的に保持 |
「タイ住民登録法」 | 住居登録証(タビアンバーン)に、義務的に登録 |
制度としては、「タイ外国人登録法」による「外国人身分証明書」(Certificate of Alien)の方が、入国者法による「居住証明書」よりも古くからある。
「外国人身分証明書」が制定された頃はまだ、この交付を持って永住者とされていたようだ。
そのため、戦後すぐに移民して居住しているような「タイ入国者法」制定以前からの永住外国人で、ずっとタイを出国することなく過ごしてきた人には、「外国人身分証明書」のみを所持している人もいるそうだ。
また、そういう人が後日「居住証明書」(Certificate of Residence)を申請する方法が、別途定められている。
「外国人身分証明書」は身分を証明する根本書類!
外国人身分証明書の役割だが、タイ国内に居住する上で、永住者の身分を証明する根本書類となる。
タイに暮らす上で身分証明書の役割を果たすものは、タイの運転免許証だったり職場のIDカードだったりと、いろいろある。
そのうち、「最も根本的な身分証明書」は何かと言えば、非永住の外国人であれば、間違いなくパスポートだ。
一方、永住者になると、外国人身分証明書が、この根本的な身分証明の役割を果たす。
すなわち、これさえ示せば、パスポートがなくても違法ではない。
さらには、パスポートが切れたままだったり、何らかの理由で本国からパスポートが発給されなくなってしまったとしても、有効な外国人身分証明書+(入管発行の)居住証明書を保持していれば、タイ国内にいる限り合法滞在だ。
公的手続きがパスポートなしで出来る(ことになっているらしい)
そのため、タイの公的手続きや登記等で、これまでパスポートが要求されていたシーンの多くで、外国人身分証明書で置き換えが出来ることになっている、らしい。
但し、実際にはこれ一冊だけでは済まなくて、居住証明書・住居登録証(タビアンバーン)・タイIDカードのいずれかと、組み合わせて提示することがほとんどだ。
組み合わせはなぜか、「外国人身分証明書+居住証明書」、ないし、「住居登録証(タビアンバーン)+タイIDカード」になることが多いようだ。
労働許可証の更新の際には、申請書の提出書類のチェック欄に、「パスポート」か「外国人身分証明書」のいずれかが選べるようになっている。
私は「外国人身分証明書」にチェックして同証明書を提出したが、念のためにパスポートも添えた。
運転免許証の更新では、「パスポート」と「外国人身分証明書」の双方の提出が必要だった。
が、実際に保持している人が少なくて認知が低いためだろう、たとえ規則上は「外国人身分証明書」が使えたとしても、実際にはパスポートでやってしまった方が、万事スムーズな印象だ。
また実際には、この冊子をそうして使う局面は少ない。
なので、外国人身分証明書は、何かに使うと言うよりも、「永住者の身分の証し」として大事に持っているということが大切なようだ。
常時携帯義務
かなり有名無実な規定だが、永住者には、外国人身分証明書の常時携帯義務がある。(外国人登録法第17条)
その代わり、パスポートは携帯しなくていい。
非永住の外国人ならば、パスポートの常時携帯義務がある。
もっともこの規定も、ほとんど有名無実だが。
警察署の永住者管理
「外国人登録法」に基づく外国人身分証明書の発給と延長は、警察署の永住外国人管理に結びついている。
警察署の永住外国人登録台帳に記載
警察署は、外国人身分証明書を発行するだけでなく、管轄域内の永住外国人登録台帳があって、永住者はこの台帳に記載され管理される。
外国人身分証明書の5年毎の延長は、永住外国人管理の一環として、警察当局が永住者の状況をアップデートして把握して行く手段でもあると言える。
もっとも、警察署が永住外国人を積極的に管理している実態はほとんどなく、こちらも制度だけで、かなり有名無実だ。
法的根拠となっている、70年以上前に制定の「1950年外国人登録法」が古すぎて、実態に合っていないためと思う。
今のように入管が全国に張り巡らされておらず、内国の外国人管理を警察署に任せていた頃の制度のなごりと言えるが、抜本的な法改正もされずに、なんとなくだらだらと続いている感じだ。
外国人身分証明書の記載事項変更
外国人身分証明書の記載事項に変更が生じた際には、延長時期を待たずに、警察署でその都度、記載事項の変更が必要だ。
対象は、氏名・国籍・住所・職業の異動とされる。
これら変更は、永住外国人登録台帳にも反映される。
転居は警察署に届け出が必要!
引っ越して住所が変わる場合には、まず郡役所/区役所で新住所の住居登録証(タビアンバーン)に自分の名前を追記した上で、警察署に赴き、外国人身分証明書の住所欄に、新住所を追記してもらわねばならない。
引っ越しに伴い警察署の管轄が変わる場合には、合わせて永住外国人台帳からも抹消してもらう。
さらに、30日以内に新住所の管轄署に出頭して、外国人身分証明書の住所欄に新住所を追記を受ける。その際に、新管轄署の永住外国人台帳にも記載される。
住所はこのように、外国人身分証明書と住居登録証(タビアンバーン)の双方の記載が、常に一致するようにしておかなければならない。
驚きの、あまりにも古い冊子!
その外国人身分証明書の冊子だが、これが、驚くほど古い。
もらったばかりの新品のはずなのに、古くて壊れそうな装丁だ。
64年以上前の印刷!?
一体、どのぐらい古いのだろうか?
冊子には発行番号を、例えば、1/2020 のように記載する欄がある。
上であれば、この警察署が2020年に発行した第1冊目という意味になる。
実際の冊子には、仏歴年で上二ケタがタイ数字で印刷されている。下二ケタだけを手書きするようになっている。
この印刷済み仏暦年の上二ケタだが、なんと「24-」 となっているのだ!

これを書いている今年は、2020年。仏歴2563年だ。
仏歴2400年代の最後の年、2499年は1956年で、64年前。
ということは、この冊子は「どんなに新しくても64年前かそれ以前に印刷された」ということになる。
「外国人身分証明書」の根拠法は、「1950年外国人登録法」だ。
すると、冊子の印刷年代は、1950年から56年までの6年間と思われる。
冊子の古さは64~70年ということになる。
果たしてそのたった6年間の間に、現在に至るも使えるだけの大量の分量を、まとめて印刷して置いたのだろうか??
冊子が初日から破れてしまった・・・
実際、装丁の古さと弱さは、64年以上前というのを十分に納得させる。
私の受領した冊子など、なんと、警察署の係官が発行時にコピーしようと折り曲げたところ、表紙の付け根が一部、破れてしまった。
さらに、中のページが脱落してしまった。
もらった初日に、私の手に渡る前にこれである・・・
ようやく永住権を取得して、やっと外国人身分証明書が発給されたというのに、発給のその場で、私の手に渡る前に冊子が破損・・・
私にとっては大ショックだ・・・
それでも、表紙が外れてしまったとか内容が分からないぐらいに破損しない限りは有効だそうで、「テープで補修しろ」とのことだった・・・
果たして100年持つのだろうか??
印刷製本が少なくとも64年前なら、36年後には、冊子の古さは100年以上ということになる。
それでも現在ある冊子のストックを、発行し続けるのだろうか?
これは、全くの謎だ。
外国人身分証明書には、何が書いてある?
ほとんどお目に掛かることのない、外国人身分証明書の中身を紹介しよう。
但し、冊子が古いため、きちんとスキャンしたり撮影したりしようと全面を大きく押し広げると、間違いなく冊子が傷む。
(実際、上述の通り発行初日の段階で、発行警察署がコピーしたら一部が破れてしまった・・・)
冊子がこれ以上傷むのは嫌なので、主だった部分のみを紹介する。
画像が明瞭でないのもそのせいなので、お許し頂きたい。
クリックで拡大できる。
1ページ目 冊子番号・本人写真・指紋・署名等
4~5ページ目 所持者の事項、入国書類関する事項
6ページ目 職業に関する事項
16~17ページ目 国籍異動の記入欄、延長記入欄
警察の永住外国人管理は、「タイランド1.0」??
お見せできる範囲で紹介したが、外国人身分証明書はこのように、各ページの記入事項は完全に手書きだ。
警察署にある、管轄域内の永住者を記録する永住外国人台帳も、やはり手書きだ。
つまり、台帳の情報は末端の警察署で紙で管理されていて、オンラインで共有されていない。
現在、タイ政府は「タイランド4.0」として、社会のデジタル化を促進することにやっきになっている。
一方で、「1950年外国人登録法」以来の警察署による永住外国人管理は、長い間全く変化がない。
いわば、こういうデジタル化の流れから完全に隔絶されて、「タイランド1.0」か、いや1.0にすら届かない過去の世界にいるようだ・・・
制度枠組みが古すぎて制度と実態の乖離があまりにも大き過ぎるので、今後もしも制度改正があるとすれば、きっと小手先の改正ではなくて、かなり大掛かりな全面改正になるだろうと予想する。