2020年8月
目次
タイ永住権は、そもそも個人で申請できるのか?
もちろん個人でできる。代行会社を通す必要はない
当然だが、制度上も代行会社を通す必要はない。個人で申請していい。
そして私は、実際に取得出来た。
支払ったのは公に規定の手数料のみだ。
タイ永住権を取得して受領した冊子。
左:入管が発行し永住権を証する「居住証明書」(Certificate of Residence)
右:居住地の警察署が発行する、「外国人身分証明書」(Certificate of Alien)
永住権だからとそう特別なわけではない
タイ永住権は、取った実感として言えば、そう厳しいものではない。
審査は外形的で、公示されている条件を満たしてそれを裏付ける書類が提出できれば、それでほぼOKだ。
(但し、審査は書類+タイ語面接の点数制。合計点が50点を上回る必要がある)
タイ語の面接審査も読み書きは問われず、日常的なタイ語会話力が試されるだけだ。
申請の委細は、バンコクの入管第1ディビジョン・永住権デスクに直接尋ねれば教えてもらえる。
タイ永住権の個人申請など「なにやら大変に困難なこと」のように思われているが、情報が少なくて正確なことがわからないので、そういうイメージばかり膨らんでいるように思う。
実際には、申請書類が多岐に渡るので揃えるのが煩雑だということはあるものの、そこまで大変なものではない。
当然だが、コネやツテがなければ申請出来ないようなものではない。
申請条件に正しく該当して申請書類が揃えられるなら、誰でも申請できる。
入管当局としても、正しく申請した人を受け付けない理由はない。
もちろん、だから誰でも取れるものではなくて、申請条件に当てはまることが大前提だ。
タイ永住権の申請は、申請条件に当てはまるのであれば、
◆自分の申請基礎資格を確認し整える。
◆必要書類と募集期間を確認する。
◆必要書類が揃ったら、募集期間内に提出する。
◆追加訂正を指摘されたら、それに従い、完全書類にする。
上は当たり前のことばかりだ。
が、実体験から言えば、タイ語面接を別にすれば、これがほぼすべてだ。
だから、公示の申請条件に欠格なく当てはまるのならば基本的に、きちんと申請しさえすれば、永住権は取得できると言える。
永住権の申請資格はついて来るもの。無理する必要はない
タイ永住権申請の大前提となるのは、申請条件に当てはまる滞在ステイタスでタイに居住していることだ。
就労や結婚と言った、申請条件に当てはまるステイタスでタイに住んでいるなら、永住権の申請資格づくりで無理する必要は、特段にないと言える。
委細は申請カテゴリーによって異なるが、例えば自身が就労している場合なら、基本的には、
◇タイに正業があって、一定以上の所得(納税)がある。
◇永住権申請基礎資格となる種類のビザと労働許可証を、きちん延長して切らさず保持している。
この二つを満たしているなら、あとはごく普通に暮らしていれば、基準年数が満たされた時点で永住権が申請できるようになる。
別の言い方をすれば、永住権の申請条件に当てはまるステイタスでタイに住んでいるなら、ごく普通に暮らしているだけで、申請資格は自然について来るのだ。
まあこれは、どの国の永住権申請でもきっと大体は同じだろう。
もっとも、所得(納税)が申請基準に満たないなら決定的な欠格要件なので、そういう場合には上げる努力が要ると言ったことは、人によってはあるだろう。
永住権の前提となる滞在ステイタスがあるなら、永住権申請に向けて最も重要な点は、申請の基礎条件(ビザや労働許可証)を、切らさず確実に毎年維持して行くことだ。
切らして取り直すと基準年数がまた1年目から積み上げになってしまい、永住権申請が遠のいてしまう。
滞在ステイタスの変更が必要なら努力が必要
一方、そもそも自分のタイ滞在資格が永住権の申請条件に当てはまらない場合には、話は全く違って来る。
永住権を目指すには、滞在資格自体を変更せねばならない。
学生やボランティアだったりタイランドエリートだったりと言った場合だ。
これは簡単なことではなく、かなりの努力が要る。この場合にはなかなか大変だ。
よく計画して、滞在資格を変更の上で滞在実績を積み上げて行くことになろう。
タイ語習得にも一定の努力が必要
タイ永住権の審査にはタイ語面接がある。
審査されるのは日常的な会話力だけで読み書きは問われないので、高度なタイ語力が求められるわけではない。
が、タイ語は、子供の頃からタイにいる訳でもなければ、単にタイに住んでさえいれば自然に身に付くわけではないので、習得には一定の努力が必要だ。
こればかりは、ただ単に居住年数を重ねるだけで済むものではない。
わたしの場合はタイ語歴が長いのが幸いし、永住権面接レベルのタイ語で特に問題になることはなかった。
申請書類が多岐に渡るので準備は煩雑
実際に永住権を申請するには、書類が多岐に渡り煩雑だったり、入管との確認のやり取りに困難もあったのは確かだ。
提出書類の分量は分厚い電話帳よりも多くなり、布の手提げかばんひとつが一杯になった。
これを揃える作業は、それなりの負担だ。
が、計画して準備すれば、みな揃えられた。

私も妻も仕事柄、タイの行政手続きや行政書類に慣れていたり、私にタイ語の法規や規則が読めたり、比較的時間の自由が利いたのも、有利に働いたと思う。
平日の真っ昼間に、日本総領事館・タイ外務省領事部の認証課・労働事務所・銀行と言ったところに、それぞれ足を複数回運んだのも、私にはあまり無理なくできた。
それから、入管が定めている提出書類要項は、書き方が一般的過ぎる部分が多々ある。
そのため、それを自分のケースに当てはめた場合の提出書類が具体的にどうなるのかは、入管に直接確認してみなければ判然としない箇所がいくつも見つかる。
書類を実際に揃える以前に、「何を揃えたらいいのか」の確認に手間取るわけだ。
そのために入管との確認のやりとりが何度も発生したのは、かなり手間ではあった。
わたしの書類準備期間は約3カ月
わたしが実際に書類準備に要した期間は、約3カ月だった。
9月から始めて12月に申請した。
3か月で一気に準備して申請にまで持って行くのは、「短期決戦」だと感じた。
100メートル走を一気に走り抜くような感覚だ。
永住権の書類準備は「手っ取り早いこと」?
当然だが、こんなタイ永住権の申請準備作業など、煩雑ではあっても「生涯で1回」しかする必要はない。
見方を変えれば、この3か月間で「今後の一生涯分のビザ延長書類を一度にすべて揃えて提出する」のと、ほぼ同義ということになる。
モノは考えようだが、「3か月一気に努力すればたった1回で一生涯分を終わらせられる」と考えると、実は「大変手っ取り早いこと」とも言える。
実際、永住権を取った現在はつくづくそう感じる。
ちょっと分かりにくい例えだが、ビザ延長の繰り返しのままなら「永久にゴールがないマラソン」を走るようなものだったのが、100メートル走を全力で走り切ることで、一気に決着をつけて次のステージに上がった、といった感覚だ。
それに、生涯で一度切りのことを経験していると考えれば、過程を楽しむ余裕も出来た。
周囲の協力が重要
個人で自力で申請とは言っても、自分たった一人ですべてやれるかというと、それは事実上、できない。
周囲の協力が必要だ。
申請カテゴリーにもよるが、重要なのは「家族」と「職場」だ。
永住権受領後の手続きについては、住まいが賃貸であれば家主の協力も重要になる。
家族の協力
永住権を、「タイ国籍者の扶養者または被扶養者」(=いわゆる「家族」)のカテゴリーで申請するのであれば、タイ人家族のいろいろな協力が欠かせない。
協力者は大体、自分のタイ人配偶者だろうが、膨大な書類の準備を助け合う以外にも、申請・面接・受領には、一緒に入管に出頭して調書作成や書類へのサインが必要だ。
そのため、実態は家族と連名で、永住権を共同申請しているのにかなり近い。
なので配偶者が、興味がなくて積極的になってくれないとか、書類や役所なんか大の苦手で全く手が付かないとか、あんたのために何でこんなことまでと喧嘩しているような場合には恐らく、申請に漕ぎ着けるのは困難だ。
家族のカテゴリーで申請の場合、永住権は「夫婦で共に勝ち得る」のに限りなく近いので、夫婦の絆が何より大切だ。
私の場合には、夫婦円満が幸いして問題にならなかった。
職場の協力
勤めている場合、勤務先から取得する書類が、多岐に渡る。
登記書だの年次会計報告書、法人納税証明といった書類の写しが必要だし、すべての写しには代表者のサインや、発行元の役所の謄本証明印が必要だ。
はたまた、銀行や役所で申請必要書類を取得するには、平日の昼間に何度も職場を抜けて取りに行かねばならない。
労働事務所が発行する「就労経歴証明書」の取得には、本人ではなくて職場名での申請が必要だ。
なので、勤務先の理解と協力は重要だ。
そうでなくては事実上申請できない。
ましてや、職場に黙って申請することは、絶対にできない。
勤務先とはスムーズな関係を作っておくのがいい。
これも永住権申請準備のひとつだ。
特に、「就労」のカテゴリーで申請する場合には、会社の上役やタイ人スタッフの理解といろいろなサポートは欠かせないだろう。
私の場合には、自分で経営しているので、幸い問題にならなかった。
家主の協力
住まいが持ち家ではなく借家の場合には、永住権を受領した後に行う「住居登録証」(タビアンバーン)への永住者の名前の追記で、家主の協力が必要になる。
委細は、こちらにまとめた。
私の場合には、持ち家なので問題にならなかった。
タイの地方在住者が永住権申請するということ
役所での書類取得
タイは広い。日本の1.5倍
タイの地方在住者が永住権申請するには、「遠距離」という問題がつきまとう。
申請先はバンコクの入管1カ所のみだし、準備書類の申請・受領では、日本大使館/総領事館とタイ外務省領事部認証課にも、何度か出向かねばならない。
タイの日本大使館/総領事館は、バンコクとチェンマイだけだ。
タイ外務省認証課の窓口は、バンコクを除く地方には3カ所のみ。チェンマイ、ウボンラーチャターニー、ソンクラーにしかない。
面積が日本の1.5倍のタイで、遠方の役所に何度も出向くのは、かなり大きな負担だ。
チェンマイの地の利
幸い、私にはチェンマイ在住の地の利が大きかった。
チェンマイは、バンコク以外で唯一、日本公館(総領事館)とタイ外務省認証課の両方が立地する。
自宅から日本総領事館までは車で15分。県庁(タイ外務省認証課)は20分で、窓口はいつもすいている。
そのため、役所へ出向くのは極めて楽だった。
もしこれが飛行機で泊りがけで数往復を要していたら、かなりの負担だったろう。
そのほか申請に必要な、労働事務所の就労経歴証明や、税務署の納税証明と言ったタイの行政書類は、地方であってもどの県でも入手できる。
困難だった入管との事前のやりとり
地方在住者として永住権申請を準備する上で、最も困難だったのは、入管とのやりとりだ。
永住権を扱うのはバンコク入管だけ
永住権のあらゆる実務は、タイ全土でたった1カ所、バンコクの入管第1ディビジョン・永住権担当デスク(カウンターD・E)だけが取り扱っている。
場所は、バンコク・ラクシー区の官庁合同庁舎B棟だ。
規則上、地方入管でも永住権申請の受付が出来ることになっているが、実態は、すべてバンコクに取り次いでいるだけだ。
永住権に関しては入管内でも、永住権デスクで直接携わるスタッフ以外は、ほとんど委細を知らず、地方入管ではなおさら何も分からない。
在タイが長い人ならば良く分かると思うが、タイではモノゴトを尋ねるのに、相手を間違ってはならない。
正しい情報は正しい相手からしか出ないので、誰が正しい相手かを見極めて尋ねるのが、なにより重要だ。
なので、永住権担当デスクとのスムースなやり取りと確認は、永住権申請の生命線と言える。
書類準備を続ける中で、不明点や判断が分かれる点は、いくつも出て来るものだ。
そのたびに永住権デスクに確認し、明確化しなくてはならない。
申請受理までに入管に出向いたのは3回
私がタイ永住権の申請正式受理までに、チェンマイからバンコクの入管に足を運んだのは、申請概要の確認で1回、申請で1回(しかし書類訂正を指示され不受理)、再申請で1回の、合計3回だった。
個人申請でこれだけで済んだのは、順調と言えるかと思う。
そのほかは電話で確認した。
申請準備上の最大の困難 永住権デスクは電話連絡が難しい!
しかし、なぜだか永住権デスクは、電話連絡が難しい。
かけてもめったに繋がらない。バンコク入管の代表電話のオペレーターには繋がるが、永住権デスクに回してもらうとめったに繋がらない。
話し中ではないのに、誰も出ないのだ。
ある時期など、書類準備で確認を要する不明点がいくつも出て、妻が1週間に渡って毎日10回近く問い合わせの電話を入れたが、なんと、全く繋がることがなかった。
どういう書類をどう整えればいいのか、それさえ分かれば、後は粛々と準備作業を進めればいいだけだ。
しかし、不明点が生じたのに入管に連絡がつかず確認が出来ないことには、この先どうすればいいのかが、いつまでたっても明確にならない。
率直に言って、私が永住権申請準備をする上で最も困難だったのは、ここだった。
こういう「入管にその都度電話連絡して確認を取ることがなかなか出来ない」不自由さこそが、準備段階での最大の障害だったのだ。
担当者と仲良くなって解決
しかし、疑問が出るたびに飛行機に乗って地方からバンコク入管に確認しに行くとなったら、たまったものではない。
さすがに辟易したが、この件は、担当者と仲良くなり直接連絡してやりとりできる関係を築くことで解決した。
(もちろん金銭のやりとりはない)
ここがクリアされてからは、準備はスムースだった。